愛と憎しみの果てに 十三話(最終話)

最終話をUPしました!!
とうとう長い長い鷹男の葛藤に決着がつきます。


◆お読みになる前に
 このお話は、秋篠様創作書庫に投稿した「愛と憎しみのハジマリ」の鷹男視点のお話となります。
 本編と同じお話として進行しますが、途中から別方向にお話が進んで行きます。
 (お話のラストが別のモノとなります。)
 本編と内容が変わってしまうのは嫌!秋篠×瑠璃のハピエンじゃないと嫌!
 と思われる方は、お読みにならないことをお勧めいたします。

*******

   『 愛と憎しみの果てに 十三話(最終話) 』
もつれるように連れ込み抱きあった御帳台の中は、未だ淫乱な空気を纏っていた。

「御身体は・・・・大丈夫ですか?」

瑠璃姫は儚げに微笑んだ。

すっかり衣の乱れを整え、向かいあって座していても、男女の睦みあいの香りがお互いを包んでいる。
ともすれば、もう一度引き寄せて唇を合わせたい衝動を必死で抑えていた。

久しぶりに味わった姫の纏わりつく程のしっとりとした肌は、今でもこの手に馴染んでいた。
久しぶりに味わった唇も、その白い肌も、甘い蜜も、何も変わることなく・・・
それでいてまるで初めてのように新鮮で・・・・・興奮が高められた。

姫の身体を労わり、優しくせねば・・・負担をかけないようにせねば・・・・と注意を払ったつもりではいるが・・・・
それでも久しぶりに味わう姫の身体に暴走が止められず、やはり無理をさせてしまったような気がする。

そして今頃襲ってきた恐ろしい程の後悔。

瑠璃姫は秋篠の妻であり、その子を身籠ってすらいる。
一時の欲情に流されこんなことをしても、満足できるのはその一瞬だけ。

過ぎ去ってしまった今はもう、再び苦しい思いに囚われている。

永遠に手に入らないモノならば、こうして想いを掘り返されるのは――――かなり辛い。
少しだけでも忘れたつもりでいたのに、また悶々とした日々を過ごさねばならない。

嫌・・・少しだけでも忘れたつもりではいたが、全く忘れることなど出来ていなかった。
だからこそ、こうして姫を目の前にして抑えが効かなくなってしまった。

「鷹男・・・・?」

私の沈黙をどう誤解したのか、不安げに瑠璃姫が声をかけてきた。
そう、こうして私を煽ったのは他の誰でもない、この愛しき姫だ。

帰るようにと言ったのに、どうなるかわからないですよと言ったのに、唇を重ねてきたのは姫の方からだ。

何故?
今頃になってどうしてこんなことを?

「瑠璃姫・・・・・どうして・・・・・・」

「――――承香殿様のことを聞いたわ。鷹男、どうして黙っていたの?」

あぁ、成程。
ほんの少しだけ期待していた気分が、急速に萎んで行く。
承香殿の御子のことを聞いて、そして私が伏せっていることを聞いて・・・・
慰めにきたと。そういうことか。

「口止めしていたと言うのに。秋篠に聞きましたか。
 それで秋篠は己の妻を私の慰めとして差し出したということですか。身重だというのに。」

「そんなんじゃないわ!!」

「ならばあなたの意思で私を慰めに来て下さったのですか?そんなに私は情けなく見えますか?」

「ちがっ!!!」

瑠璃姫の言葉を遮るように強く言い放った。

「もう御帰りなさい。このようなことをされても、私の心など休まることはありませんから。」

私は立ち上がると、御帳台を囲んでいる御簾を捲りあげ、瑠璃姫に出るように促した。
のろのろと立ち上がった瑠璃姫は、私の方を悲しげな瞳でじっと見つめながら御簾をくぐった。

「もうこのようなことをしてはいけません。私も・・・・そしてあなたも傷つくだけです。」

そう言って瑠璃姫に背を向け、襖に向かった私の背中に、"ドン"とやわらかなモノが当って来た。
振り返るまでもなく、瑠璃姫が私の腰に手を回し、抱きついていることがわかった。

「姫・・・・お願いですからもう・・・・もう私をこれ以上苦しめないで下さい。」

どんなにあなたを抱きしめ、この腕にかき抱いても、あなたは私のモノになることはないのだから。

「鷹男・・・・・ごめんなさい。あたし、鷹男に謝らないといけないことがあるの。」

今更瑠璃姫がどんな謝罪をしようとも、私の心が救われることなどないのに。

「止めて下さい!あなたに謝られれば謝られる程、私は惨めになっていく。
 それがわからないんですか!?」

私は腰に絡められた姫の手をそっと振りほどこうとした。
が、姫の手は離さんとばかりにがっちりと絡められ動こうとしない。
私は心を鬼にして、渾身の力を込めて姫の両腕を腰から振りほどいた。

「鷹男の子なの!!」

一瞬何を言われたかわからずに両手の力が抜けた。

「あたしのお腹の中の子は、鷹男の子なの!!」

瑠璃姫の両腕が再び私の腰にがっちりと絡められた。
やわらかな身体がぎゅっと背中に押しつけられる。

"鷹男の子なの"・・・・・?
瑠璃姫の身籠っている子が?私の?

「御医師様に頼み込んで産み月を一月偽っていたの。――――わかるでしょう?
 この子は初めて鷹男に抱かれた頃に出来た子なの。あの時あたしは秋篠様とは関係がなかった・・・・・」

「・・・・・・!」

「承香殿様が身籠られたとわかっていたから・・・・・あたしがいたらお世継ぎ争いの火種になると思ったの。
 だからこそ秋篠様もあたしを抱いたのだとわかっていたし、そんな皆の気持ちを無視して、
 鷹男の子を・・・・今上帝の御子を身籠っただなんて言えなかった――――――。」

私の背中で姫が震えているのがわかった。
泣いているのだろうか?

「承香殿様がこんなことになったから・・・って訳じゃないの。それが考え直すいいきっかけになったのは確かだけど・・・・
 あたし、いっぱいいっぱい考えた。」

瑠璃姫はそう言ったきり、身体を震わせて泣きじゃくっているようだった。

いっぱいいっぱい考えて・・・・そしてあなたはどうすることに決めたのですか?
私はそっと振り返ると、泣いている瑠璃姫をそっと抱きしめた。

そのままでは苦しそうなお腹を気遣い、そっと抱きあげると再び褥に腰を下ろした。
瑠璃姫は私の膝の上に抱え込んだまま抱きしめていた。
その頃になって、微かな歓喜が私を包み始めた。
姫のこのお腹にいる子が私の子・・・・・?信じられない思いで姫を見つめていた。

私の胸に顔を埋めていた瑠璃姫がようやく顔を上げた。

「鷹男、この子が産まれることを望んでくれる?」

潤んだ瞳で強請るように問われ、一瞬理性を失いそうになった。

「当たり前です!!我が子が産まれてくるのを望まぬ親などおりません。」

「でも鷹男は帝で、あたしは秋篠様の妻よ。この子が鷹男の子だと皆に認められるのは大変なことだと思う。
 それに・・・・鷹男の名が貶められるかと思うと・・・・嫌なの。」

「そんなことで堕ちる名なら、いっそのこと捨てても構いません。」

「駄目!!そんなの絶対に駄目!!」

私は更に高まる歓喜に飲み込まれないように、理性を働かせていた。
この子が私の子であるからと言って、瑠璃姫の心が私にあるとは限らないのだから。

「姫は・・・・どうされたいのですか?そして秋篠は・・・・なんと言っているのですか?」

「秋篠様とはちゃんと話し合ったの。ちゃんとわかってくれた。」

瑠璃姫がじっと私の目を見ている。これから姫が口にしようとしている言葉を想像して心が落ちつかない。

「鷹男――――。あたし、鷹男が好き。この子と一緒に鷹男の側に居させて欲しい。
 女御様だとか尚侍様だとかになれなくてもいいの。ただただ、鷹男の側にいたいの。
 ううん。いるって決めたの。それがあたしと秋篠様の願いなの。」

「・・・・・・・・・・っ!」

何を言っていいのか、何も言葉にならない。
あれほどまでに望んだ瑠璃姫が、私を好きだと言ってくれている。
それでも・・・・それでも煮え切らないこの心は・・・・やはりあのことが心の奥底に引っかかっているからに違いない。
私が、唯恵を斬らせたと言う事実――――。

「瑠璃姫・・・・それはあなたの本心なのですか?もしや帥の宮にでも何か言われましたか?」

瑠璃姫が承香殿のことを知っていたということは、多分帥の宮が私のことを気遣って話したのだろう。

「そうね・・・帥の宮様に色々言われたのは本当よ。でも彼は迷っていたあたしの背中を押してくれた。
 ――――すごく感謝している。
 この子にも、あたしにも・・・・鷹男、あなたが必要なの。」

私は耐えきれずに姫をきつく抱きしめその髪に顔を埋めた。
恥ずかしながら涙が溢れそうで、しばらくそのまま堪えていた。
そんな私に黙って抱きしめられたまま、瑠璃姫が耳元でそっと囁いた。

「鷹男、もう過去になんて囚われないで。
 吉野君のことで・・・・あたしは一度も鷹男を怨んだことなんてないわ。
 寧ろあたしの方が謝らなければならないことだらけで申し訳なかったのに・・・・・。
 鷹男がそんな罪の意識に囚われているって知っていたら・・・・あたし、もっと早く鷹男の元に来たのに。」

驚くことを言われ、思わず姫の身体を離し、まじまじとその顔を覗きこんだ。

「私を・・・・・・怨んでいないのですか?」

「だから、そんなこと思ったこと一度もないって!!」

「吉野に何度文を出しても御返事もいただけないし、てっきり相当嫌われているものと・・・・・」

「全く鷹男って、強引なくせにそういうところ、鈍いんだね。―――――あたしはっ!!」

瑠璃姫がほんのりと顔を赤らめた。

「あたしは・・・・?何ですか?」

「あたしは・・・・ずっと鷹男のことが好きだったの!!でも鷹男の名を貶めるのが嫌だったし・・・・・・
 何よりも自分に素直になれなかったの。
 ずっとあたし一人と言ってくれる人じゃないと嫌・・・・なんて言っておいて、帝の元に入内するなんて・・・・
 考えられなかったし、そうしたら高彬にも悪いと思ってた。
 もしも鷹男が高彬と同じような身分だったら絶対に鷹男を選ぶのに・・・・って思ってた。
 よくよく考えて見ると、あたしはずっとずっと鷹男のことが好きで・・・・でもその想いを認められなくて否定し続けていた。
 だから怖くて返事も書けなかったの。ともすれば、あなたのことを好きですと言ってしまいそうで。
 だからあたしはずっとその気持ちは自分だけの秘密にしておこうって思ってた。
 鷹男がそこまであたしのことを好きでいてくれたなんて知らなかったから・・・・・・。
 知っていたら・・・・・もし本気で女御入内の宣旨を出されていたら・・・・・多分鷹男の元に行っていたと思う。」

あまりにの言葉に思わず絶句した。
瑠璃姫はずっと私のことを・・・・好きだった?

「女御入内の宣旨を・・・・・受けていたってことですか・・・・・・?」

「文句を言いながら・・・・そうしていたと思う。」

瑠璃姫が恥ずかしそうに、上目づかいにちらりと私を伺い見る。
その顔が堪らなく可愛らしくて、私は再び腕を伸ばして抱き寄せた。

「私は・・・・・・大馬鹿モノですね。何も知らずに―――――あなたに酷いことをした。・・・・・秋篠にも。」

「・・・・・・・・・・・・・」

流石の瑠璃姫も何も言えずに黙りこんだ。
私の命で秋篠に瑠璃姫の夜這いを仕掛けさせたなど・・・・

「どんなに謝っても謝りきれないことをしました・・・・・・」

「そのことはもう、いいわ。実際あたしは秋篠様と結婚をしても良いと思うくらいあの方を好きになったし・・・・
 それによって鷹男だって相当苦しんだんでしょう?」

「―――――はっきり言って生き地獄でした。」

「ふふふ。自業自得よね。
 きっとあのことは必然だったんだよ。あたしと鷹男が一緒になる為の。」

「本当に?」

「え!?」

瑠璃姫の髪をそっと撫でながら呟いた。

「本当に私でいいのですか・・・・?」

「―――――鷹男がいいの。もう!これ以上恥ずかしいこと言わせないで!!」

そっと姫の顔を見ると、これ以上ないくらい赤く染まっている。

「唯恵や、右近少将や、秋篠の想いも全部受け止めて―――――あなたを愛して行きます。」

やがて瞳を閉じた瑠璃姫の唇に、そっと唇を重ねた。
その唇はいつもの通り甘くて、そして何故かとても懐かしい香りがした。




出会った日に戻りたいと思っていた。
どうしてこんなことになってしまったのだろうと、何度も己を責めた。
そして何度もどす黒い嫉妬を感じた。

このまま全てが壊れてしまえばいいとすら思った。


そんな想いが今、全て浄化されていくのがわかった。

――――ここまで来るのに、一体何人の者達を不幸にしてきたことだろう。

だが、そうしてまでも欲しくて欲しくてあがいていた大切なモノを、ようやく私は手に入れた。



これが何人もの尊い犠牲の上にあることを、一生忘れずに生きて行こう。


           愛する人と共に、果てまで・・・・・・・・・・










後書き

最後まで読んで下さってありがとうございました!!
秋篠様創作書庫へ投稿した「愛と憎しみのハジマリ」の鷹男バージョンをキリリクとしていただいた時は、作品への愛を感じてとっても嬉しかったです。
あちらでは秋篠×瑠璃のハピエンだったのですが、あまりにも可哀想な鷹男を少しでも救済しよう??
とのお心遣いから、鷹男×瑠璃でリクを頂きました。
あちらのお話を壊さないようにしつつ、鷹男×瑠璃にした場合のハピエンを想像して書いてみました。
私的にはとても満足な作品となりましたが、リクを下さったS様はいかがだったでしょうか!?
気に入ってくださると嬉しいなぁ・・・・(*^_^*)
この後、今回可哀想なラストになってしまった秋篠様のための・・・・と言ってもいいような番外編を用意しています。
こちらも楽しんでいただければ幸いです。

りく
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