男と女の事情・38

777777hitキリリク第二弾作品、平安のお話です。

リク主:りみ様
リク内容:ジャパネスク版『とりかえばや物語』

引き続き鷹男サイドです

**********

  『 男と女の事情・38 』

なんとなく気が重かった。

我武者羅に政務をこなし、ようやく一息ついたのは昼過ぎの事だった。
夜御殿で瑠璃姫は、今も何一つ身に纏わずに震えているのだろうか?
そう考えると、気まずい気持ち以上に、体が高ぶるのもわかった。

所詮私もただ一人の男なのだと思い知らされる。
女一人にこれほど振り回されようとは・・・・

秋篠に手渡された希羅の衣装を手に、そっと部屋へ戻ると、瑠璃姫は薄い衾で体を覆って褥の上に座っていた。
そのお顔がとても寂しそうに見えて、今更ながら自分のした事を後悔した。

姫は・・・私の事をお嫌になってしまっただろうか?

こうして見ていると、姫はどう見ても女にしか見えず、己が手にしている衣が偽物のような気すらしてくる。
だが一度これを身に纏えば、驚くほど勇敢で頼りになる男に変身する。

「瑠璃姫・・・・・」

希羅と声をかけるべきだろうか?とおかしな事を悩みながら、結局は瑠璃姫・・・と愛しい人の名を呼んだ。
姫はハッとしたかのように顔を上げた。
少し泣いたのだろうか?
頬に涙の痕がある。

あられもない格好でその場にひれ伏す瑠璃姫に、パサリと希羅の衣装をかけた。

「あの・・・・主上・・・・?」

戸惑った顔をしている瑠璃姫。

「すまなかった。」

素直に謝罪の言葉を口にすると、姫は慌てたような顔をした。

「そんな、おやめください。悪いのは全て私なのでございますから。」

「すみません・・・・別に怒っていた訳ではないのです。
 単なる嫉妬です。」

今私の目の前で震えているのは勇敢な部下ではなく、打ち震えているか弱き女・・・・
私が今一番守るべき存在。
そう・・・・・他の誰でもなく、姫を守るべき存在は私であって欲しい。
ただそれだけなのだ。

「嫉妬・・・・・・」

瑠璃姫が困惑したような顔をする。
ぴんとこないのだろうか?
私がこんなにも姫を想って苦しんでいるというのに。

「はぁ・・・・私は姫、あなたを目の前にすると感情が抑えきれなくなるようです。」

少し困ったような顔をしている瑠璃姫があまりにも愛しくて。
そのまま姫を抱き寄せた。

「唯恵と少し話をしました。
 姫がおっしゃっていた事と相違なかった。」

「・・・・・はい。」

薄い衾越しに、姫の震えが伝わってくる。
その震えは私に対する恐れなのだろうか?

「それでも・・・・・やはりだめなのです。
 嘘だとか嘘じゃないとかそういう問題ではなく・・・・・
 私はただ・・・・・」

私はただ、あなたの全部でありたいのです。
――――なんて言葉、恥ずかしくて言えそうになくて、口を噤んだ。

「私の事を嫌いになりましたか?」

嫌いになったと言われても、勿論手放すことなど出来ないのだが。

「と、とんでもございません!」

「なら、どう思っていますか?」

姫が沈黙する。
どんな答えが返ってくるのかと、胸がドキドキしてくるのがわかった。
たかが女一人の答えに、こんなに一喜一憂しようとは・・・・・

「ふ、深く・・・・お慕いしております・・・・・」

お慕いしている。
それはどうとでも受け止められる言葉。

「それは権中将として?それとも瑠璃姫として?」

姫は少しだけ考えるそぶりを見せてからおっしゃった。

「権中将としましては・・・・・とても尊敬の念を抱いております・・・・
 尚侍としましては・・・・・」

尚侍としましては・・・とは、即ち女としては・・・・ということ。
女としての瑠璃姫は、男としての私をどう思っているのだろうか?
当たり障りのない言葉で濁されるのだろうか?

帝である私を目の前にして、おかしな事を言えない事はわかっている。
それでも少しでも嬉しい言葉を聞きたかった。

じっと瑠璃姫を見詰めていると、少しだけ頬を赤くして。
小さな小さな声でおっしゃった。

「主上が・・・・他の女御様を召されたと聞くと・・・・胸が痛みます・・・・」

「それは・・・・・」

心臓がドクンと音を立てるのがわかった。

「触れられると、体中が熱くなります。」

「瑠璃姫・・・・」

体中が熱くなってくる。

「お怒りになられて・・・・嫌われたと思ったら・・・・・」

姫の大きな瞳から、ほろりと涙が零れ堕ちた。

「嫌われたと思ったら・・・・どうして良いのかわからなくなりました。」

「それは・・・・・」

それは私の事を好いてくれていると思っていいのですか?
そう聞きたかったのだが、まるでそれを遮るかのように、急に瑠璃姫が両腕を私の首に回してきた。

自然と密着する体。
薄い衾越しに、姫の心臓がドキドキと音を立てているのが伝わってくる。
そして――――

柔らかな姫の唇がそっと重なった。

瑠璃姫から私に口づけをしてくれたのは・・・・・多分初めての事。

「瑠璃姫・・・・・」

もう何も言わなくともお互いの気持ちがわかるような気がした。

「主上・・・・・」

瑠璃姫の甘い声が私を誘い・・・・
そのまま褥へと倒れこんだ。

「はぁ・・・・昼間からは我慢しようと思っていたのに・・・・姫、あなたのせいですからね。」

本当に、本当に我慢するつもりでいたのだ。
だがどうやらそんな我慢は必要ないようだ。

瑠璃姫の耳もとに唇を寄せて囁いた。

「瑠璃姫でいる時は・・・・・
 私の事を鷹男と呼んで下さい。」

鷹男とは、私が裏で内密に動くときに使っている名で。
その名を知る者はごくわずか。

姫には私を主上・・・・ではなく、鷹男と呼んで欲しかった。
他の女御達とは違うと知って欲しかったのかもしれない。

「たか・・・・・お?」

瑠璃姫が私の特別な名を呼ぶと、なんだかお互いが特別なような気がした。
姫の弱い耳たぶを軽く噛んで、脱がせる必要もない体にそっと手を伸ばした。

「鷹男・・・・・鷹男っ・・・・鷹男っ!!!」

姫の中心は驚くほど潤っていて・・・・
いつもよりも深く、強く互いが繋がった。


初めて、身も心も一つになれたような気がした。


結局――――
その日瑠璃姫が希羅権中将に戻ることはなかった。



そろそろ――――
色々と決断しなければならない時期かもしれない。




続く



ランキングに参加しています。ポチッと応援よろしくお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ



関連記事
ポチッとして頂けると嬉しいです!
web拍手 by FC2

コメント

Secret

FC2カウンター

プロフィール

りく

Author:りく
まず最初に ◆はじめに をお読み下さい。

最新記事

ランキングボタン

にほんブログ村 小説ブログ 二次小説へ

最新コメント

カレンダー

02 | 2024/03 | 04
- - - - - 1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31 - - - - - -

カテゴリ

オンラインカウンター

現在の閲覧者数:

Twitter

Copy Code

リンク

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブログ村ランキング

検索フォーム

QRコード

QR

RSSリンクの表示