恋の百物語・第50首

百人一首@うた恋・・・「恋の百物語」
第五十首は、私りくの作品です。
「百恋歌・29」となっております。

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『 恋の百物語 第50首  』

      ~ 君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな ~



目覚めた塗籠の中は薄暗いだけで、今が昼なのか夜なのかさえわからない。

最初はドンドンと戸を叩きあたしを説得しようとしていた小萩の声も今は聞こえない。
まぁ、いい加減諦めるよね。
小萩なら、あたしが諦めて出て来るまで待とうと思っている事だろう。

でも・・・この戸を開けて外に出るのが怖い。
鷹男がどれだけ怒ってるかと思うと・・・自分がした事なのに気持ちが沈んでしまう。

もう少し此処に籠っていようか?

そう思ったのも束の間、胸のあたりがムカムカとしてきて酷く気分が悪くなってくる。
まずい・・・・ちょっと吐きたいかも・・・・

少しだけ横になってみたけれど治まりそうにない。
外の新鮮な空気を吸いたい気分。

いつものあたしなら、自分から引き籠っておいて、そうそう簡単に此処から出たりはしないのだけど・・・
今は体が大切。
自分一人ならどうなったって構わないのだけど・・・

そっとお腹に手をあててみた。
まだ膨らんでもいないし、何の変化もない。
だけど多分此処には新たな命が宿っている。

そう思うと不思議な気分になる。

「いつまでも馬鹿はしてられないよね。」

誰かに語りかけるかのように呟いた。




体の異変を感じたのは本当に最近の事だった。
食欲がなくなって、酷く体が疲れた。
夜はすぐに眠くなるし、精神的に不安定になった。

そんなあたしの異変にいち早く気付いたのは小萩で。
すぐに御医師様に診せようと言いだした。

「大袈裟だよ。疲れているだけだから。」

って笑うあたしに小萩は言った。

「もしかしたら・・・・ご懐妊かもしれませんよ?」

言われて初めて気付いた。
そう言えば月のモノも遅れている。
この気分の悪さは悪阻かもしれないと。

でも、あたしが医師を呼べば間違いなく鷹男に知られるし、何事かと大騒ぎになる。
もう少し様子を見てから鷹男に相談してみよう。
そう思っていた。

だけど――――
そんな事など知らない鷹男は毎日のように藤壺へやってきて、あたしを抱く。
時に激しい事もあるし、万が一懐妊していたとしたらそういう事って良くないんじゃないだろうか?
そう思ったから・・・早々に鷹男に相談することにした。

なのに!
話があるって言ってるのに!!
その日の鷹男は何やら苛立っていて、あたしの話を聞こうともせずに行為に及んだ。
しかもあたしが多少なりとも拒否したのがいけなかったのか・・・
まるで怒りをぶつけるかのように激しかった。

翌日は珍しく夜御殿へ呼ばれて、また怒りをぶつけられて。

あたしも切れてしまった。

結果、未だ鷹男に相談することも、御医師様に診て頂くことも出来ずにいる。




「あ、ちょっとまずいかも・・・・」

気分の悪さに加えて、差し込むような胃の痛みを感じた。
このまま此処で倒れてしまったら・・・
お腹にいるかもしれない命も危うくなる。

もう、あたしの我儘だけで行動は出来ない。

いつ此処を追い出されても構わないと・・・どこかで思っている自分がいた。
だから今まで勝手気ままに出来た。
鷹男に飽きられたら、吉野にでも籠って尼になればいいと。

だけど・・・・
もし本当に此処に新たな命があるのなら、そんな無責任な事は出来ない。

そう思って。

そっと塗籠の戸を開けてみた。

「えっ!?な、なんで!?」

最初に目に入って来た光景に目を疑った。
そこには脇息に凭れ掛かって目を閉じている鷹男が居たのだから。
鷹男の目がそっと開いて。

「瑠璃姫・・・・」

少し寝ぼけているのか、ぼんやりとそう呟いた。
伸ばされた腕に吸い込まれるかのように、鷹男の元へ歩み寄りその腕の中にすっぽりと納まった。

暖かい・・・・

「良かった。朝まで待って出て来られなかったら戸を蹴破ってしまおうかと考えていたところですよ。」

「鷹男・・・」

この人は・・・あたしの為に、此処にずっと腰を下ろして待っていてくれたのだろうか?
帝だとういうのに。

「まだ・・・・怒っていますか?」

ぶんぶんと首を横に振った。

「良かった。―――――私はあなたがいないと駄目みたいです。」

昨日までの怒りは何処へやら、凄く穏やかな鷹男にホッとした。
ホッとしたら、またムカムカとした気分の悪さが蘇ってきて、思わず口元を押さえて蹲った。

「姫?」

驚いた様子の鷹男があたしの体を支えるようにして腕に抱きかかえてくれる。

「どうしたのです!?」

「ごめん、ちょっとだけ気分が悪くて・・・・」

そう言うと、鷹男はあっという間にあたしを抱きあげて、

「誰か!」

そう声を上げて、あたしを御帳台の褥へと大急ぎで運んでくれた。
わらわらと女房達がやってきて、鷹男の命で大急ぎで典医様が呼ばれて・・・

あたしは鷹男に相談する間もなく、典医様の診察を受けることになり・・・

半時後には、二人揃って典医様に、

「おめでとうございます。」

って伝えられていた。

その時の鷹男の顔を、あたしは一生忘れないだろう。
やっぱり鷹男に出逢えて、鷹男を信じて此処へ来て良かった。



あなたの為にも、この子の為にも――――

――――あたしはきっと・・・もっと強くなれる。




続く(051へ)



著:りく

小倉百人一首 050 藤原義孝  君がため惜しからざりし命さへ 長くもがなと思ひけるかな




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